TSUKUBA TOMMOROW LABO

FEATURES2019.03.14

移動する部屋で未来を創る|塩浦一彗

「TSUKUBA TOMORROW LABO」とは、“世界のあした”を考え、実験・実行していくつくば市のプロジェクトです。第1回目は、新しい暮らし方になるかもしれないと話題のバンライフ(#VANLIFE)にフォーカス。自然と向き合い、テクノロジーを駆使し、バンライファーとともに快適なバンライフを実験します。

そこで、実験会場となる『つくばVAN泊』(2019年3月開催)にご参加いただく方々をシリーズでご紹介。5人目は、東京の下町にある倉庫をベースに、モバイルハウスを造って「未来の暮らし」を提案している塩浦一彗さんにお話を伺いました。

 

 


 

メタボリズムは現代にこそハマる

私は建築家ですが、建築を職業としながらも、その土台となる「不動産」に対して疑問や問題意識を持っていました。土地は財産として考えられていますが、私たちの世代には、35年も住宅ローンを組んで、ずっと同じ場所に住みたくないという人が結構たくさんいます。時代がこんなにも変化していて、これからも大きく変わりそうだというのに一カ所に定住して、ほぼ一生ローンを払い続けるというのは「おめでたい」ことじゃないって思うんです。

だったら、土地と箱(住まい)を分けて、箱だけを増やせるようにしたらいいのではないかと。安価に作れて、しかも移動できる部屋。そのような箱があれば、今日は鎌倉で、明日は渋谷で、来月は地方で、という暮らしができますよね。1950年代に建築家の菊竹清訓さんや黒川紀章さんらが起こした「メタボリズム」という建築運動では、「都市は社会や人口変化により有機的に新陳代謝していく」という考え方を提唱していました。その「新陳代謝」の具体的な内容は、「ジョイント・コア」という発想で、「コア」に対して「カプセル」が移動するというものでした。建築物としては実現されませんでしたが、このアイデアは現代だからこそ実現でき、受け入れられるのではないかと思ったんですね。そこで立ち上げたのがこのモバイルハウス事業の会社「SAMPO(サンポ)」なんです。

 

MOC+HOC=未来の暮らし

SAMPOの工場兼語らいの場「CULTURE BAR “G.L SMITH”」数台のMOCが常駐している。

私 たちが事業として行っているのは、「MOC(Mobile Cell 略称:モック)」という移動する部屋の制作と、そのステーションとなるHOC(House Core 略称:ホック)と呼んでいる、住生活インフラを整えた住宅やシェアハウスなどの拠点作りです。

「MOC」は、軽トラックの荷台に人間の力で載せ、移動できる個室です。「MOC」の中には当然キッチンやバス・トイレ、リビングなどはありません。ですので必要なインフラはステーションである「HOC」でシェアするという仕組みです。

「MOC」を置ける「HOC」は、現在、都内では駒沢公園や三軒茶屋など4拠点あり、これから拠点を増やしていく予定です。例えば、三軒茶屋の「HOC」はもともとはシェアハウスの場所で、駐車スペースが車15台分ほどあったので、そこに「MOC」を設置しています。トイレやシャワーはシェアハウスの設備を使います。

 

移動する部屋「MOC」は自分で作れる

倉庫内のワークショップエリアには多くの工具が並ぶ。

グラフィカルでとてもわかりやすいMOCの設計図。

「MOC」は、お客さんと一緒にワークショップ形式で共同制作します。まずは、建築家やインテリアデザイナー、職人たちが作りたい部屋のイメージをヒヤリング。イメージが固まれば、そこから最短1週間程度で完成させます。こだわりたい人は、時間をかけて制作しています。

これまで、23台の移動する部屋「MOC」を制作しました。予算的には、お客さんのこだわりやアイデアで変わってきますが、60万~160万円くらいです。あとは軽トラックさえあれば、好きな場所に移動して暮らすことができます。車を所有していなくても、レンタカーや知人・友人に頼んで移動できる点が、キャンピングカーなど車自体を部屋にする発想とは大きく異なります。

軽トラックの積載量は、法定で350kg以内に抑える必要があるので、持ち物や衣服などの重さも含めて設計する必要があります。
「MOC」を多くの人に作ってもらいたいという思いから、ノウハウを落とし込み、ホームセンターで買える木材で、誰でも「MOC」を作れる設計図も作成しました。先日、早稲田大学の学生さんがフードトラックを作りたいとやってきまして、彼らはホームセンターに行き、設計図どおりに木材をカットしてもらいまして、あとは家具を組み立てるように自身で部屋を制作しました。電動ドライバーと丸ノコギリ、手伝いがひとりいれば、自分の部屋が簡単に作れます。

 

どんな人にも、クリエイター魂は宿っている

実際に居住用に使われているMOC。小さなスペースにその人の個性が凝縮されてる。

当初「MOC」のニーズは、キャンパーやサーファーなどの趣味人を想定していたのですが、意外にも自分の住まいや部屋が欲しいという目的の人が多くて驚きました。このSAMPOの駐車スペースにもいくつか「MOC」を設置していますが、オーナーは一般企業に勤めている方で、会社が近所であること、賃貸住宅よりも生活コストがかからず、何より自分らしい部屋に住める点が気に入っているそうです。

お客さんの年齢層は、19歳から40代まで幅広いです。ここにある「MOC」は、住める部屋以外に、サウナ、DJブース、ゲストハウス、動く図書館など、いろんな機能を持っています。「MOC」のリノベーションもあり、最初のオーナーから買い取り、見事な茶室に改装した人もいます。また、住む場所を自分の手で作るという行為は、人間にとって特別な感情が湧くものだということも、大きな発見でした。作ったからこそ湧く愛着、作った人同士の共感、これはマイホームは買うものという概念からは、得られないものですよね。

みんなアーティストとか、モノ作りが元々得意だったかというと、そういうわけではないんです。むしろDIY経験もほぼない方々で(笑)。「MOC」を作りはじめてわかったことは、人間ってみんなクリエイターなんだってこと。作りたい!と思ってもその方法を知らないだけで、こういうイメージや世界観のものが作りたい!好き!というセンスは誰もが持っているんですよね。それを我々がサポートしながら制作することで、イメージを形にしていただいています。

 

行く先を、豊かな価値観を持って選択する

最初に『つくばVAN泊』のお話をいただいたときは、今までの行政ならやらないジャンルだろうなと思っていたので驚きました。
人口集中による、家賃や住宅価格の高騰、収入の格差の拡大、あらゆる都市が直面している課題です。
本来は、行政が主導して解決に取り組むスケールの話だとは思いますが、私はこれらの課題を美学と価値観で変えていけたら、と思っています。
茶室しかり、日本人はもともと「小さいけれど豊か」という価値観を持っていますし、我々の「MOC」が住居のオルタナティブになって、住宅インフラを変える手助けになればと。

私が想像する未来は、車が空を飛ぶようなSF的な世界ではなく、誰もが豊かな価値観を持って行く道を選択していける未来。ぜひ僕たちのMOCを見に『つくばVAN泊』に来てください。中に入れば、新しい価値観に出会えるかもしれません。

 

 


 

塩浦一彗

SAMPO inc. Co-founder/Chief Architecture

 

1993年生まれ。ミラノの高校を卒業後、ロンドンに渡りUCL, Bartlettにて建築を学ぶ。2016年に帰国し、建築新人戦2016最優秀新人賞を獲得。建築事務所で様々なプロジェクトに携わるが、所有しやすく自由に住め自分の好きな美学を詰め込める現代版の数寄屋のような家を実現するために、モバイルハウス事業「SAMPO」を現社長の村上大陸氏(前職はVR事業の会社経営者)と立ち上げる。

 

https://www.sampo.mobi/

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