FEATURES2021.06.25
コロナ禍における「医療相談アプリ」の社会的価値 | 伊藤俊一郎
「TSUKUBA TOMORROW LABO」とは、“世界のあした”を考え、実験・実行していくつくば市のプロジェクト。
つくば市では、新型コロナウイルス感染症が日常生活にもたらした大きな変化に対し、独自のアイデアやテクノロジーを駆使した取り組みやチャレンジを積極的に導入・支援しています。コロナ収束の目途が立たない中、アイデアをカタチにして、With/Afterのコロナ社会に新しい価値やサービスを提供している、つくばの方々をシリーズでご紹介します。
今回は、医療相談アプリケーション「LEBER」(リーバー)を提供する、株式会社LEBER代表取締役CEOの伊藤俊一郎さんに話を伺いました。
「いつでも気軽に医師と相談できる」ことが救ったもの
医療相談アプリ「LEBER」は、24時間・365日スマホで医師と相談できる医療相談アプリケーションとして、2018年1月に誕生しました。遠隔医療でありながら、「人と人とを信頼感で結びつける」ことを ミッションとし、「患者様の病を癒すのみならず、医師の皆様の過重労働の軽減にも寄与したい」という思いを、私自身の医師としての経験から開発当初より強く持っています。
これまで、つくば市をはじめ茨城県内でも実証実験を重ね、スマホで医師に無料で健康相談ができることで、子育て世代の不安軽減、あるいは自治体内での体調不良傾向の把握につながることを確認してきました。多くの利用者から「相談して不安が軽減した」とのお声をいただくことができ、サービスの改善と充実を図ってきました。
そして、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起こりました。私たちは、感染拡大による人々の不安の軽減はもとより、コロナ禍での医療機関への一極集中に伴う二次感染やパンデミックの防止に貢献しなければとの思いから、直ちに茨城県内の在住者を中心にオンライン医療相談の無償提供を実施しました。その結果、ユーザー数と相談者数は飛躍的に拡大、茨城県内だけでも極めて多くの人々の不安を和らげ、安心していただくことができたのではないかと考えています。
教育現場や保護者の負担軽減に繋がった「LEBER for School」
老人ホームや訪問診療所の経営、心臓外科医としての10年間の勤務経験などから、体調管理における体温計測の重要性を認識していましたが、コロナ禍では患者様だけではなく、スタッフの毎日の体調管理が必要になりました。そこで急遽、体温記録機能を新たに開発し、これを介護や医療の現場だけでなく学校でも役立てていただけるように開発したものが『LEBER for School』です。
はじめに導入いただいたのが、つくば市です。紙で集計していた健康観察などがデジタル化したことで、保護者からは手書きや電話連絡の手間が省け、教職員からは管理の時間を大幅に減少することができたと、喜びの声をいただくことができました。
健康観察だけでなく、遅刻や欠席の連絡もアプリ上で完結できるようにしてほしいとの要望もあり、出欠席通知機能を搭載するなど、導入後も改善と改良を続けています。
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グローバルに広がる利用と需要
学校を対象に開発された「LEBER for School」の契約数は、2021年2月現在で約350校(5万人)にまで増加しました。また、一般企業向けにストレスチェックなども盛り込んだ「LEBER for Business」は約100社(2万人)が契約しており、需要は増え続けています。
さらに、2020年12月には「LEBER for School」の健康観察機能を多言語化し、英語、中国語、ポルトガル語、ベトナム語、ヒンディー語の計6カ国語でのサービスの提供を開始しました。これによって日本国内に在住する様々な国籍・地域の方の不安軽減や症状の緩和にも貢献できればと思います。
「いつでも。どこでも。誰にでも。」すべての人々に適切な医療を
2019年末から2020年末の1年間で、「LEBER」のユーザー数は約1万人から約13.9万人に、相談者数は約3.5千人から約2.8万人となるなど飛躍的に増加しています。医師の登録者数も当初、知り合いの医師に頼んで約50人からスタートしたところから、300人以上(2021年2月現在)となっています。
遠隔医療は万能ではなく、医師による対面診療に優るものでは決してありません。 しかし、コロナ禍は対面診療のみならず医療サービスの提供体制そのものを大きく変えてしまいました。私たちは、「いつでも。どこでも。誰にでも。」を信念に、With/Afterコロナ社会にあっても、すべての人々に適切な医療が行き渡るよう、さらなる努力を重ねていきたいと考えています。
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代表取締役CEO 伊藤俊一郎
新潟県出身。2004年筑波大学卒業。医療法人AGRIE理事長, 株式会社AGRI CARE会長,株式会社AGREE代表取締役。外科医として11年間勤務したのち、2015年つくばみらい市に在宅療養支援診療所と住宅型有料老人ホームを開所。2018年にはつくば市内で医療相談アプリ「LEBER」をローンチ。起業家として、日本の医療問題や医療従事者の働き方改革に立ち向かう。